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藤の屋文具店

藤の屋文具店

はじめてのC 8~15


          【はじめてのC】

        キャンプ場の夜はあけて


 鳥の声で目が覚める。コールマンのドームテントのベージュの頂
上部から、柔らかい光が内部を照らす。暖かいがシュラフが湿って
いた。エアーマットに接した面は結露してべたべたである。時計を
見ると午前7時、もそもそと起き出す。
 とりあえずトイレへ行ってから湯を沸かす。熱いコーヒーを飲み
ダイナブックで作文、ぱこぱこキーを叩いていたら、奥さんが起き
てきた。今何時。7時だよ。ふーん。あれ? どうしたの? げげ、
まだ5時半だった。うわー、わたしもういっぺん寝るわ。僕は起き
てるよ、シュラフ湿ってるで。汗かいたんか? うん。あーた蒸気
にんげんなんやもんなぁ・・・

 曇った空にときおり太陽が見える。散歩をしているのか、ざっざ
っと足音。むかいのサイトのボンゴワゴンは、車内で泊まったよう
だ。作文の途中でダイナブックがぴいぴいと鳴く、補助バッテリー
まで付けているのに一時間半しかもたなくなってきた。がんばれ東
芝どうした東芝、おまえの技術はこんなもんかい。
 しょうがないので散歩にでる。群馬ナンバーの新型ルシーダに富
山のMVP、地元石川のオデッセイは、コールマンのイスやテーブ
ルをずらりと並べている。どこに積んできたんや? イスは6人分
もあるぞ。6月に見に来たときのパイプフレームには、宝くじ寄贈
のでっかいロッジテントが張られていた。布でできたバンガローの
趣である。

 こんどは本当に7時、子どもたちが起きてきた。みんな、すこぶ
る機嫌が良い。ガスレンジ用のトースターでパンを焼く、フライパ
ンではハムエッグ。けっこう食べるわ。
 ときおり晴れ間が見えていた空の様子が、だんだん怪しくなって
きた。天気予報では雨が確実視されているので、干しておいたシュ
ラフをぼちぼちしまいはじめることにする。撤収のけいこもだいぶ
やったので、家族は手慣れてきた。
 むかいのおっさんは、今朝もゴミを焼いている。ポリ袋が混じっ
ているらしくて、嫌な臭いがそこらじゅうに漂う。こういう人にか
ぎって、僕たちのように所定のごみ箱にごみを捨てる初心者のこと
を、心の中で責めていたりもするもんだ。ひとりよがりの善人は、
まっとうな他人に根拠のない優越感を持つものなのである。

 のんびりと片づけて11時前に出発。能登島へ向かう。雨が降っ
てきた。やけに遠回りの道を走らされて、水族館に着いた。高校時
代は熱帯魚をせっせと飼育していたので、なんか、懐かしい。僕は
もっぱら、多鰭魚目のやつが好きだった。そう、いわゆる怪魚と呼
ばれるたぐいのやつらである。泳いでいて出くわしたら心臓がつり
そうな外見のやつ。でも、能登島のタンクの中にはいなかった。
 いるかショーを観る。よう仕込んだものだ。でも、僕はあまり動
物の芸は好きではない。なんでかな。人に媚びるようで悲しくなる
のだろうか。飼い主に媚びるのが嫌で犬を飼いたくないのと同じか
な。家来を持つのが死ぬほどいやな性格なのであろう。
 進はペンギンが気に入ったようで、柵にちゃがってずっと見物し
ている。首の後ろを掻くしぐさが猫のようだ。泳いでいるぶんには、
鴨とたいして違わんなぁ。直立してるとこだけが、鳥類離れしてい
るわけか。ミーアキャットと同じで、外敵の早期警戒のための姿勢
であろうか。

 奥さんも気がすんだようなので、帰ることにする。僕一人ならこ
こにはこないだろうな。ものぐさな僕は観光旅行はしないのだ。僕
が魅力を感じるのは、自分でする何かの遊びと、逢いたい人に逢い
に行くことである。眺めるだけの旅はしない。
 小雨のぱらつく売店でかき氷とたこ焼きを買い込み、クルマの中
で食べる。ゆっくりと発進、標識に従って来た道とちがう道を走ら
される。島全体が一方通行のように案内されているようだ。すれ違
うクルマが滅多になかったのはそのためか。
 ふたたび能登有料道路で金沢まで、金沢西から北陸高速、はしょ
って帰ったので5時に深見町に着いた。荷物を降ろしてガレージに
収納、家に帰る。

 実戦投入ででてきた問題点、明るいランタンが必要、自立式のタ
ープが欲しい、かさばるイスは、なんとか屋根に積みたい。濡れた
タープやテントをしまうバッグも欲しい、連泊するならガス冷蔵庫
のほうが楽ちん、エアマット用の電動ポンプが欲しい、携帯用のバ
ッテリーもあるといいな。
 ああ、なんという贅沢な欲求であろうか。ひとりSM等と呼ばれ
る正統派アウトドアマニアから、レンガが飛んできそうである。で
も、庭にイタチが出没して沢ガニが散歩するような家に住んでいた
人間にとっては、「自然」は額にしわ寄せて味わうものではないの
だよ。他人にかける迷惑は人並に抑えるように努力するから、豪華
絢爛装備を責めんでおくれ(^^)。

 だわもんキャンパーのトライは続く。

キャンプ8

          【はじめてのC】

           走る文化生活


 シェイクダウンで明らかになった問題点をクリアすべく、文具事
務用品のオフシーズンたる夏の暇な時を、僕はキャンプ道具の充実
につぎ込む事にした。水泳やヨットはもったいないのでやめないた
め、小説書きやおもちゃ創り、通信の時間が削られる事になった。
クルマの趣味もおやすみ。枕元にはいつも、ガルヴィだのビーパル
だのオートキャンパーだのが乱舞することになる。

 さて、自立式のタープ、いかにも頑丈そうなアライテントの「オ
ウコバック4」というやつが良さそうなのだが、あまりにも高価な
のであきらめた。で、特価21000円也のスクリーンハウスを、
通信販売で購入してみた。
 ところがこれ、庭で組み上げたときに突然の夕立、張り方があま
り十分でなかったせいか雨水がたまり、あっというまに倒壊してし
まった。塩ビのジョイントがひ弱で、ぐにゃぐにゃ曲がるのである。
 雨風なければ良い道具・・では仕方がないので、そのうちに造形
用の樹脂ででも固定補強して使う事にして、当面はヘキサタープで
我慢することにした。

 次にランタン、ガソリンのほうがトータルでの携帯性が良いのは
承知の上で、カセットガス使用の200Wタイプを購入した。僕が
ひとりでバックパックするならともかく、クルマを使って家族5人
で行動するには、とにかく簡易さのほうが優先なのである。で、ホ
ームセンターで9800円で売っていたやつを購入、部屋で試して
みたらあらすてき、なんと明るいんでしょ。るんっ。
 
 増えた荷物のために貴重になった車内スペースを稼ぎ出すため、
図体ばっかで目方の軽いイスを、屋根の上に追い出す事にした。ジ
ェットバッグにはシュラフが入るため、不要になったルーフキャリ
アのバーを3本間引き、ジェットバッグをまたぐ格好でその前に取
り付けた。流線型のルシーダは屋根が短いため、バーが3本しかつ
けられないためである。
 イスを雨ざらしにはできないので防水バッグが必要なのだが、ど
うせ高いに決まっているので、自分達で作る事にした。さいわい、
使わなくなったやすもんの四角いタープがあったので、それをじょ
きじょき切って、ディレクターチェアが2脚入る封筒をふたつこさ
えた。四角い布切れを、裏地を表にしてふたつに折ってL字型にミ
シン掛けしてから、裏返すだけである。なんだ、簡単じゃないか。

 ロゴスのカタログに載っていたトイレも届いた。簡単に言えば、
水タンクのついたおまるである。用を足したあとでポンプでしゅこ
しゅこと便器に注水し、地獄の蓋をレバーで開ければ、うんこはず
びずびと吸い込まれていくわけなのだ。容量は8リットル、満タン
になったら汚水タンクを分離して捨てに行くのだ。あなたのうんこ
とわたしのうんこ、まざりまざってたっぷんたっぷん。。。。。
 いちおう現地で空にして持ち帰る予定だが、出てしもうたもんは
なんとなくばっちい感じがするので、トイレはテールゲートのラダ
ーに装着して持ち運ぶことにする。追突したひとはウンが悪いとあ
きらめてもらおう。

 エアマット用の電動ポンプ、これはゴムボートのためにも必要で
ある。以前自動車用のやつを買ったのだが、圧力はともかく送風量
が貧弱で使いものにならん。タイヤのエアー補充には有効なんだけ
どねぇ。たまたまチラシに出ていたアキレスの電動ポンプを買って
みた。げ、15Aも喰うのか。クルマの近くでしか使えないのも困
るし、ポータブル電源をこさえることにした。とはいえ面倒なのは
嫌いなので簡単にやってみる。中古車屋が使うような手提げ式のバ
ッテリーをひとつ購入、持って歩いてバッテリーの上がったクルマ
につなぐアレである。それに、カーショップで売っている端子をつ
けて、シガーソケットのメスをつなぐだけ。ヒューズだけ20Aに
取り替えて使う。少し容量オーバーだが、大丈夫じゃろ(^^)。つい
でに、ダイナブック用の電源コードもこさえる。ソケットにコード
をネジで締めるだけである。

 残るはガス冷蔵庫、これはちょっと高くて手が出ない。当面の予
定では、ガルヴィ主催の白馬での2泊3日が唯一の連泊なので、ク
ーラーバッグで我慢することにした。なんとか素子というのを使用
した安い電気冷蔵庫もあるが、規格を見ると性能が悪すぎるのでダ
メ。中途半端なものなら無いほうがええわ。

 ここまでの装備を登載したルシーダを想像してみる、屋根の後部
にはジェットバッグ、その前にはルーフキャリア、右側には金の筒、
左側には銀の筒、後ろのドアにはハシゴ、それにおんぶするポータ
ブルトイレ、なんか、戦闘態勢の武蔵坊弁慶みたいだなぁ。合体完
了の戦隊ロボと言った方が適切か(^^)。

 「アウトドア」なんて本には、タープですら、それを使うと自然
との触れ合いに難がある・・なんて批判が載っているが、何という
か、スーパーセブンにはスーパーセブンの、ムスタングコンバーチ
ブルにはそれなりの、楽しみ方があるのだと思うよ。テントとシュ
ラフですらも軟弱だとこきおろす世界すらもあることを知ってはい
るが、道楽の家族キャンプにお経を掲げる趣味はない。楽しんだも
んの勝ちである。えっへん。

キャンプ9

          【はじめてのC】

            湖畔の宿


 前回までの反省をふまえ、第二回目のキャンプに挑むことになっ
た。金曜日にすでに道具を詰め込んだルシーダが、駐車場で待って
いる。昼食がすむと同時に奥さんは野菜の下処理をはじめた。現地
での時間とゴミの圧縮のためである。ハウツー本のノウハウ記事に
は、たしかに非現実的なアタマでっかちの記事も多いのだが、もち
ろんもっともなおはなしもたくさん載っている。ド初心者の僕たち
は、説教臭い精神論はともかく、実戦的なアイディアは素直に取り
入れることにした。温故知新、こそっとちょんぼである。初日も現
地で遊びたいため、3時出発を目標に任務を遂行していく。
 1時から2時までは店番、その間にチェックリストの確認を済ま
せる。親との交代にはまだ時間があるが、暇なので奥さんを買い物
に出す。ほどなく親と店番を代わって、クルマを店の前の道路に横
付けした。ボートの底板とシュラフとエアーマットを、ジェットバ
ッグに積み込む。道ゆく人がちらちらと見ている。フロントに新設
したルーフキャリアには、手作り防水バッグに入れたイスを4脚積
む。ベルトで固定した上を、ネットで覆うのだ。

 今回は湖水浴兼用なので、ゴムボートも積んである。当然、室内
はわやくちゃである。国産の乗用車の致命的な欠点は、ひたすら荷
物室の狭さであろう。定員乗車して遊びに行けるクルマは、あまり
ないくらいだ。もちろん、ゴルフ程度のもんなら別だが、ヨットや
ジェットスキーはともかく、パラセールやスキューバ、自転車程度
の道具ですら、国産のRVで運ぶには苦労することが多い。
 ルシーダは、現状の国産RVの中では荷室が広い方ではあるが、
家族5人でのキャンプをサポートするだけの広さはない。仕方がな
いので、3列目の右側のイスを畳んだ。屋根の上とあわせて、かろ
うじて全部積めた。次回からはイスを取り外していこうと思う。
 
 予定通り午後3時に出発、目的地は琵琶湖、サニービーチの知内
浜キャンプ場である。いつもヨットに行くときに通過していくとこ
ろだ。雨はなんとか上がった、陽は、照っていないこともない。な
んか、いつもこんなんだなぁ。
 敦賀のあたりで雨、空は真っ黒である。現地は降らないとの情報
を期待して走る。手作り防水バッグの性能はどんなもんだろか。約
1時間半で現地到着、チェックインしてサイトに入る。

「せ、せまい~」

 一区画10坪ほどしかない。しかも、隣のサイトとの間隔はゼロ
だ。細い通路の両側にサイトを設けてあるので、5ナンバーのルシ
ーダをとめるのですら切り返しが必要だ。これじゃぁトレーラーだ
のモーターホームだのは無理である。
 気を取り直して設営を開始。隣のサイトと干渉しないようにター
プ、テントの位置を決めた。選択の余地なくレイアウトは自動的に
決まる。完成間近のジグソーパズルの気分。

 がしゃがしゃやっている間に昇が泳ぎたいと言い出す。ライフジ
ャケットを着用させて発進。次いで明と進も発進。ひと仕事終えて
偵察に行く、遊泳エリアがロープで確保してあるのを知って、ゴム
ボートを膨らます。近くの河口ではアユの稚魚を網ですくっていた。
 明に現場監視を一任してテントに戻る。奥さんはシチューをこさ
えていた。ほどなく明が帰還、網とビクを買ってふたたび戻る。次
いで進が帰還、網を貸してくれんと告訴。売り切れのために本格的
なやつを購入、進、よろこびいさむ。
 すべてのセットが終了したので、ガタバウトチェアという座るだ
けのらくちんイスを持って浜へ行く。明は器用にゴムボートを漕い
でいた。オールの反作用で推進する原理から、効率的な運用を探り
だしたようである。よしよし。自分の体で覚えたことは忘れんぞ。

 ひとしきり遊んで夕食。とってきたアユをフライパンでバター炒
めにする。あー、苦いわ。やっぱり、予定外の食材は有効利用が困
難である。シチューとスパゲティの夕食を、子供たちはもくもくと
食べた。
 夕食後、明るい明るいガスランタンのもとで今回の反省。サイト
の間隔が狭いと張り綱の位置を制限されるので、自立式のタープが
欲しい。電動エアポンプとバッテリーは非常に便利。連泊の時には
ガス冷蔵庫が欲しい。濡れたものを干しておくものが欲しい。あと
はこまごまとした装備の不具合で、簡単に改造可能である。ま、も
はや大きな問題点や切迫した不便はない。
 進とシャワーを浴びに行く。進は、奥さんよりも僕についてくる
のである。温水ですすぐだけだが気持ち良い。金曜に見てきたキャ
ンピングトレーラーが欲しくなった。あれならどこへ行ってもシャ
ワーとトイレの心配がないぞ。
 さっぱりしたところでダイナブックを広げ、バッテリーから電源
をとって作文。GFからのメールへの返事。独身者は自由でいいな
と少しだけ思うが、僕がそんなことを言ったら浮かばれないひとも
たくさんいるわ。わはは。

 大事なものをクルマにしまってロック、テントに入る。子供たち
は熟睡。小雨がときおり降るので、テントを全閉して眠る。気温は
低いので良いが、湿度は高い。明日は晴れるだろうか。。。

          【はじめてのC】

          虹色のみずうみ


 雨の音がする。弱ったな、早めに撤収して温泉にでもいこうか、
そんなことを考えながらシュラフの中でじっとしていた。まてよ、
思いだした。この水音はとなりの養殖池の音じゃないか。安心して
もういちど眠ろうとするのだが、じめじめしていて気持ちが悪い。
 ゆうべ、少し雨が降っていたので閉め切って眠ったせいか、テン
トの中が銭湯の脱衣場のようである。げ、シュラフもべたべた。表
面はベルベット起毛してあるとはいえ、しょせんビニールのエアマ
ット、シュラフと接する面に結露して、そこが濡れているのだ。こ
たつ板の下面が濡れるのと同じ原理である。だけど、ほかのシュラ
フは濡れていない。僕のだけである。どうやら僕は、人より多量の
蒸気を放出する体質であるらしい。
 とにかく湿気をなんとかしようと、4方向のファスナーを全開に
する。コールマンドーム2がスタンダードドームと違うところは、
4方向の全てに、窓か出入口が存在することである。期待して開け
たわりには、さして爽やかでもなかったが。

 どんよりした空、シュラフを干しても乾燥は期待できそうにもな
い。今回は一泊なので帰ってから干せばよいが、連泊で雨が降って
いたらなめくじが湧いてしまう。僕の分だけベッドを使って、湿気
を大気に放出することにしよう。そんなことを相談しながら朝食の
支度。奥さんは、新兵器のホットサンドトースターを使用してハム
チーズトーストサンドを制作していた。おぉ、うまいじゃないか。
 チェックアウトは12時過ぎてもいいですよと言われたので、子
どもらと浜辺で遊ぶ。ザリガニを発見、指で威嚇したらハサミを振
り上げて応戦してきよった。福井のたんぼにいるアメリカザリガニ
とは違う種類のようである。ハサミがかなり背中側までそりくり返
るので、背後から掴むのがちと難しい。とはいえ、なに、たかが甲
殻類、人類の英知の敵ではない。昇が小枝を箸のように使って簡単
に捕獲した。連れて帰るそうである。

 11時をまわったので撤収開始、ゴムボートをたたむのがなかな
か厄介だ。自信のない分野では一流品を、と考えて買ったアキレス
の4人乗りは、よその家族のそれらよりもずっとずっと重くて頑丈
である。これに、ライフジャケット着せた子どもを乗せてロープで
囲まれた遊泳区間で放し飼いにするのだから、安全には違いないわ
な。自由にさせるためにはそれなりの用意も必要である。

 道具が多いので、片づけるよりむしろ積み込むほうに時間がかか
る。うまくやらんとドアが閉まらん。やはり、僕らのような遊び方
では、カーゴトレーラーが必要だろう。来年の夏は、トレーラーを
購入することにしよう。
 なんとか荷物を積み込み、とりあえずチェックアウト。天気はだ
いぶ回復してきたので、午後はとなりの高木浜のほうで過ごすこと
にする。ゲートをくぐると駐車料金1000円也、感じとしては須
磨の海水浴場みたいな雰囲気。とてもハイカラである。家族連れが
ラーメンとかき氷・・ではなくって、若いカップルが沖を眺めなが
らコーヒー、そんな雰囲気である。ほれ、コーヒーゼリーかなんか
のCMみたいな世界じゃ。

 簡単な昼食をとり、水着に着替える。タープ張ったりイス出した
りするのは面倒なので、パラソルとガタバウトチェアだけ出す。明
と昇はライフジャケットを着けて泳ぎ回る。進はまたもや穴掘りを
リクエスト、しかたないので穴を掘る。千里浜と違って砂がさらさ
らなので、石ころをあつめて堤防を築く。ガウディの建造物みたい
なのが出来上がりつつあるのを見て、明が参加してきた。水底から
おおきな石をどんどん拾って集めてくる。進も水中石拾いに参入、
ガリンペイロの親子である。

 身体を焼いたり水に浸かったり、穴を掘ったり。家まで2時間弱
の距離なので、のんびりと遊んだ。子どもたちも遊び疲れたのか、
そろそろ帰ろうと言い出しても抵抗しない。順番にシャワーを浴び
に行く。シャワーのある建物の向こうに、キャンピングカーが見え
る。オートキャンプのクルマもたくさんいる。うん、今度はこっち
のキャンプ場に泊まってみよう。そうすればもっとのんびりと道具
広げて遊んでいられるぞ。

 満足感と疲労を載せて、ルシーダは福井へ向かう。

          【はじめてのC】

         遥かなる旅路(1)


 6時半起床、ごそごそと支度を始める。白馬まで2泊3日のキャ
ンプに出かけるのである。今回は長距離なので、早くでたい。すで
に装備は昨日のうちに積載してある。
 午前8時、駐車場からクルマをとってくる。店の前で着替えその
他を積み込み、クーラーボックスに保冷剤をセットして2日分の食
料を入れた。
 8時20分、出発。行きつけのガソリンスタンドで満タンにして
から空気圧をチェック、特に異常もないのでウォッシャー液だけ補
充しておく。そのあいだに奥さんはおにぎりとジュースを買いに行
く。
 8時45分、高速道路に乗る。本来なら高速で糸魚川まで出て、
国道を南下して白馬へ向かうのだが、先日の豪雨で国道が不通とな
っているため、今回は別のルートで行くことにした。北陸高速を南
下して米原より名神へ入り、小牧から中央高速を北上、岡谷で長野
自動車道へ入り豊科まで。さらに国道を50キロ走って白馬47ス
キー場に到着という予定である。総走行距離約400キロ、糸魚川
ルートにくらべて100キロ以上の遠回りである。

 さて現実に走ってみると、小牧ジャンクションまではスムーズに
いったのだが、中央高速はとても走りにくい。走行車線をおとなし
く走っていると、異常に遅いクルマにブロックされるのである。し
かも、こういう遅いクルマは、追い越しをかけるととたんに速度を
上げたりする。おそらく、ドライバーは無意識にこうしているのだ
ろう。白線をまたいで走るクルマや、追い越し直後に急激に割り込
む人も多い。正直言ってあまり走りたくない道路である。
 途中、伊北のあたりから渋滞が始まった。工事のためであるらし
い。止まっている走行車線の横を、登坂車線を利用してたくさんの
クルマが先へ進む。そして現場直前で走行車線に割り込むので、も
のすごい待ち時間になる。一時間以上をロスしてしまった。こうい
うマナーの悪さは、東名も名神も変わりはない。路側帯で追い越し
かけるちゅうぶるベンツともども、ニッポンの恥である。僕は見栄
っぱりなので、もちろんこんなあさましいまねはしない。

 予定では3時に到着するはずが、何箇所かあるこの手の工事渋滞
のために大幅に遅れ、現地に到着したのは4時半であった。
 ただちにテントを設営、あいた場所でバーナーを広げてお湯を沸
かす。進にカップうどんを与えておいて、もろもろの設備をセット、
バッテリーをセットしてエアーポンプでマットを膨らます。それに
してもサイトが狭い。タープを普通にセットしたらテントの置き場
がないくらいである。おまけに砂地でペグがうまく入らず、場所を
選ぶだけの広さがないので張り綱が不安定な位置になる。なるべく
早く自立式のタープに切り替えたいなぁ。
 このキャンプ場の問題点はほかにもあった。砂というよりは乾燥
した土というような地面のため、非常にほこりっぽいのだが、たい
らで使いやすそうに見えたこのサイト、その場にいるだけで、イス
に座っていても立っていても、なんかめまいのようなものを感じる
のである。テンプルにコークスクリューパンチをもらった経験など
もちろんない。テーブルの上のペットボトルの水面が傾いているの
を見て、原因がわかった。もちろん、この地に円盤基地があるため
の重力異常ではない、地面が傾いているのである。傾いてなければ
スキーはできんわな。

 ひととおり設営を終えて会場のチェック。トイレは広くて清潔な
ので安心。ポータブルトイレの必要はない。スキーウェア対応のた
めか、5号事務机が入るほど広く、洋式便器である。シートヒータ
ーもついている。英語だと「ホットシート」と呼んでいいのじゃろ
うか。テントの臨時売店には氷や野菜も売っていたので安心、クー
ラーボックス用の板氷とビールを買ってテントに戻る。
 夕食、奥さんは大器晩成型であるらしい。未来に期待を託した献
立がでてきた。あ、いえ、おいしいです、はい。食事中に強まって
きた風が気になり、風上のポールを下げたりロープを増し締めした
りする。僕は心配症なのである。
 食後のビールがおいしい。風よけになるはずの隣のサイトは、ず
ぅっとあいていてクルマが来そうにないので、ポールを一本はずし
て風よけを作った。ペグもちゃんと効いているようなのでやっと安
心する。ぼけーとしていたら、キャンプフォーラムのUJIさんが
やってきた。目の前のサイトである。ふたりきりで来ているのを見
て、奥さんが少しうらやましがっていた。うちは結婚直後にこども
ができてしもうたので、奥さんは22歳からずっと育児に追われて
いたのである。

 はよぅおっきなって独立してくれると助かるんだがなぁ。。


          【はじめてのC】

         遥かなる旅路(2)


 ざあざあという川の流れを聞きながら目覚める。快晴である。折
り畳み式のベッド、コットと呼ぶそうであるが、そのコットのおか
げで気持ち良く眠られた。体内から発散した汗は、結露することな
く大気中に放出されたようである。よかったよかった。これで、雨
の連泊キャンプでもカビが生えずにすむわい。
 今までの一泊キャンプと違い、朝っぱらから片づけなくてもよい
ので嬉しい。のーんびりとくつろぐ。トーストとハムやトマトのサ
ンドイッチ。水場はえんえんと混雑しているが、僕たちのサイトは
携帯式のキッチンのおかげで楽だ。飲料水のタンクをたくさん持っ
てくれば、設備の何もないところでもキャンプ可能である。いや、
むしろそういうキャンプのほうが、今はガレージで眠っている発電
機だって持ってきて使えるから、便利かもしれないぞ。

 陽が照りだした。山の中のせいか雲が多く、天地創造のごとき光
のシャワーが雲間から注いだりもする。ビールがうまい。雑誌のス
タッフが、アンケートや写真をとりにくる。キャリアなんかをこさ
えている会社のおねーさんは、金の筒をみつけてあれはなんですか
と聞きにきた。そう、排水管に使う150φの塩ビパイプにカッテ
ィングシートを巻いたアレである。ボートのオールやパラソル、ゆ
くゆくは釣竿なんかも入る予定ではある。見渡せばたくさんのスタ
ッフが、おもいおもいのターゲットにインタヴューをトライしてい
た。なんせ300張にものぼるオートキャンプの実践展示場、デー
タの収拾としてはこれ以上のサンプルはあるまい。
 僕たちも、さりげなくデータの収拾をはじめる。よそいきのかっ
こいいアドバイスからは得られない知識は、こういう所帯じみた現
実からくみ取るのである。食事には不便なあのイスを使っているの
は、トランクに余裕のないクルマのせい、そうかこんな地面にはこ
ういうペグを使うのか、なるほどこういうタープの張り方もあるか、
ああ、やはりこのタープは張るのがめんどくさそう、トレーラーは
寝室に限定したほうが使いやすいかな、それにしても自立式タープ
は誰もつかっておらんな、もろもろ、もろもろ。

 昼食はスパゲティ、おいしいです、はい。一服してからUJIさ
んのとこへ遊びにいく。美人で口の悪いGFに「自慢グッズ」と呼
ばれているアルバムその他を持参して、うれしそうに自慢する。ち
いさい子がガラクタを誇らしげにみせびらかすのと、変わるところ
はないなぁ。
 進がまつわりついてきたので、一緒に川へいく。棚状になった広
い川を、水が滝のように段々に流れている。進はこういう岩場が好
きらしく、厭きることなくブラウン運動を繰り返す。水深は深いと
ころでもせいぜい50センチ、危険はないのだがほっておくわけに
もいかん。海水パンツいっちょでじりじりと太陽にさらされ、僕の
身体は狐色からコーヒー牛乳色へとグレードアップしていく。
 ひとしきり遊びまわったあと、進とシャワーを浴びにいく。突然
熱くなるから注意してねとの貼り紙、そんなこともあるわいなと思
いつつ100円玉を入れる。うん、温かくていいぞ・・・あっちち
ちち、うわー、こんどは水だ、あ、あちちちちち、あ、つめたい、
うわーあちちち・・・・
 くそ、まるで安定しない。3つのシャワールームでそれぞれが湯
と水のコックをあわてて回しあうせいで、水温がコントロールを離
れてしまうのであった。

 夕食はカレー、冷たいビールでゆったりと。何やら抽選会がある
らしくて、奥さんと明は広場へでかけた。昇が虫を取りに行こうと
言うので、二人の帰りを待って付き合う。熊が出てきそうなところ
へ行きたがるのをなだめ、安全なところでお茶を濁す。ガマが道ば
たにいたのでつんつんして遊ぶ。虫は採れなかった。
 テントに戻って帰りのルートを相談する。糸魚川へ抜けるのは不
可能なので、新潟方面へ抜けて北陸高速で帰るか、あるいは中部山
岳地帯を横断して帰るか、どっちにしてもかなんな・・・。


          【はじめてのC】

         遥かなる旅路(3)


 最終日の朝である。もらったアンケートにいろいろ記入する。学
生時代にしていたアルバイトのせいで、この手の回答がどのような
いい加減さで「コンピュータによって分析された」データになるの
か、僕にはたいへん良く想像できるので不安ではある。統計学の原
理に対する知識はもとより、フィールドワークに対する中高年管理
職の理解不足は、時としてとてつもない製品を世に出す悲喜劇を生
み出すのであるよ。

 撤収のための準備を始める。明は工作スクールに出かけていった
ので、奥さんとふたりでのんびりやる。何といっても短期間に何度
もやっているため、とまどいも不安もない。キャンプ歴二ヶ月の超
初心者ではあるのだが、テントやタープの設営は庭で何度もやり、
台風並の悪条件での使用も体験しているため、わずか3度の宿泊経
験にもかかわらず度胸だけは一人前である。天気がよいので、シュ
ラフも干してから畳む。
 イスは自作の防水バッグに2脚づつ入れて、テーブルともどもフ
ロントのルーフキャリアに、シュラフとエアマットと枕はリアのル
ーフバッグに、ポータブルトイレとキッチンの排水タンクは、リア
ゲートのはしごに取り付けた自作キャリアへ、残りの荷物はイスを
ひとつ取り外した室内へと押し込む。今後の課題があるとすれば、
室内側の荷物の積み方くらいである。カーゴトレーラーを買えば解
決だけどなぁ。
 すべての撤収が終わる。明が帰ってくる。ドライブ用の服装に着
替え、UJIさんたちと記念撮影をして出発、これからがまた長い
のだよ。

 まず、松本まで50キロほど走る。道はまあまあ広くて走り易い
し渋滞もとくにない。松本からは上高地へ抜け、高山を目指す。と
てもすごい山道である。高低差とカーブが深いだけではあるが、大
型バスのすれ違いのたびに行列が止まり、いつ動き出すとも知れぬ
渋滞が始まるのである。車掌が向こうから駆けてくる。すれ違い場
所を見きわめて要所要所のドライバーに何事か指示、やがてバスが
現れる。こんなルートは、トレーラーを引いては通りたくないな、
そんな皮算用をしながらじっと待つ。
 安房峠をこえてしばらくいくと、トンネルの中で道が分岐してい
る。学生時代に何度か通った道だ。もう、あれから20年が過ぎた
のか。あのころはいつも一人で動いていた。べたべたとした「友情」
を嫌悪し、いつも独りで走っていた。歳をとればああいう人たちに
慣れるかと思っていたあの頃、今の僕は当時の僕から見てどうなの
だろうか? ひんやりした闇の中で、今も独りでいる友人の顔が浮
かんで消えた。
 高山の手前で夕食、市内で少し迷う。郊外で、かってクラシック
カーの大御所だった店の前を通った。ペガソやXK150やASA
1000や300SLの飾ってあったショールームには、どこにで
もある実用車が飾られていた。一瞬だけ輝く人は珍しくないが、継
続できる人はほとんどいない。どんな世界でも、である。
 荘川を通って白鳥へ抜ける。去年の連休にDSで来て以来だ。東
海北陸自動車道の看板が立っていた。峰にそびゆる高架が、低くな
った陽を浴びて森に影を落とす。文化人めらはめくじらを立てるか
も知れぬが、僕は、自然をねじふせるように切り裂く文明の姿に、
感動をすら覚える。僕にとっての大自然は、保護してやろうなどと
いうひ弱なものではなく、闘わねばならぬ強大な敵なのだろう。エ
アコンの効いた仕事場で、ありのままの自然を賛美するとぬかすだ
けの青びょうたんに、何がわかるもんかいな。
 途中で、新しくできた九頭竜のオートキャンプ場が見えた。なか
なかよさそうなので次はここを予約しようと話しながらゆっくりと
通過。7時を過ぎたのにまだ明るい。大野のコンビニで飲物を補給
して福井へ。福井まつりの花火が空を焦がす。

 8時間にわたる長旅を終えて、ルシーダは駐車場でエンジンを止
めた。ごくろうさん。

          【はじめてのC】

             後記


 春の連休から準備を始め、7月から実戦投入。ガルヴィのあとも
すでに九頭竜湖で一泊キャンプをしており、このあとも若狭に予約
を入れている。この夏だけでも5回のキャンプを体験するわけであ
る。さて、読んでいておわかりの通り、僕は、権威というものをあ
まり有り難がらないバチアタリの初心者である。

 そも、たかがリクレーションに過ぎぬオートキャンプの世界に、
やたら自然保護だの環境思想だのを持ち込んで説教たれる風潮には、
僕はとても追従する気がおきない。辺境の田舎町の没落貴族が、成
り上がり者を妬んで冠婚葬祭のしきたりを振り回して無知をあざけ
るのに似て、うすらみっともない印象を与えるのだろうか。

 もちろん、浄化槽すら持たぬ形ばかりの施設で営業するキャンプ
場では、垂れ流しを前提とした洗剤を使用すべきだろうし、ゴルフ
場に喰い荒らされた残りの山を切り開いたような立地のキャンプ場
では、激減した地中生物のためにも焚火などはするべきではないだ
ろう。
 しかしまた、明確に設定された規則をきちんと守る限りにおいて
は、誰もみな、おおげさな「自然保護」などという、宗教に近い観
念にふりまわされて、額にしわよせておごそかにキャンプするまで
の義務など、ないと思う。

 どんな世界でもそうだが、ぱっとブームになったばかりのジャン
ルでは、それまでほそぼそとやってきた人たちがオーソリティとし
て初心者の指導に当たる、そういう傾向がある。そういう人たちの
多くは、現在のこういうブームを招く原動力となるだけの活動を地
道にやってこられた、尊敬に値する人物である。
 しかしまた、そういうまっとうな諸先輩にまじって、単に昔から
やっていただけ、しかも、ろくでもないあほんだらなことをやって
世間のひんしゅくをかっていたようなオタンコナスもまた、うにょ
うにょと生き延びている。
 僕の今までの体験からいうと、初心者に対して「~~~~べから
ず」的な高圧的な態度で、どうでもよいと思えるようなことを説教
垂れるようなやからは、圧倒的にオタンコナスのほうである。ひと
皮剥けば、体験が経験として消化されていない、資源の無駄使いの
ようなザル頭の、単にえばりたいだけののすたるじじいであった。

 オートキャンプと従来の山屋のキャンプは、まったく別のもので
ある。僕たちのような家族が求めているのは、難行苦行の末に眼前
に広がる大自然に感動してうち震えるような体験を家族で共有する
ことでも、家族の心を合わせて大自然の脅威に立ち向かうことでも
ない。るんるんのピクニックの延長にある、便利でお手軽でローコ
ストの一泊旅行なのである。
 ああそれなのにそれなのに、ちょっと専門的な雑誌に載っている
のは、やたら自然という言葉で飾り付けた、不便と不衛生を弁護す
るようなお経のオンパレードではないか。まるで体育会の特訓のよ
うである。清潔に保たれた水洗便所ときちんとしたゴミ処理施設、
リゾートホテルでだって使用している洗剤の使える排水処理施設、
そういうものを、家族一泊6000円払って提供される10坪の地
面に要求するのは、「ほんとうの自然を味あおうとしない」、「近
代文明に毒された」、横着者のこまったちゃんの愚鈍で無知な大衆
の身のほど知らずのわがままなのであろうか? いや、違う! お
お、感きわまって否定法まで使ってしまったぞ。

 現在の爆発的なオートキャンプブームによってこれから参加しよ
うかと思い始めている善男善女の諸君、案ずることは何もない。僕
たち一家が、定められた規則をきちんと守り、そのうえでずけずけ
とものを言う事によって、「大自然オタク」の非難を一手に引き受
けてさしあげよう。でわ、ぷろぱがんだをいっぱぁーつぅ

 われわれわぁ~しょうしみんだぁ~

 おぉときゃんぷぅわぁ~たかがあそびぃだぁ~

 たのしむことがぁ~もくてぇきぃだぁぁぁあ~

 べんりをもぉとぉめぇてぇ~なぁにぃがぁわぁるぅいぃぃぃぃ~

 もんくがあるやつぁ~かかってこぉぉぉお~い~

 うわっはっはっはっはぁ~

                         完



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